カレー曜日は元気になる日。
お肉がいっぱいだとより嬉しい。
「バート、今日なに食べたいの」
「んー?カレー!肉いっぱいがいい」
爆弾を避けるゲームをしながら答え、自然と横に曲がっていた体を起こす。
尋ねてきたヴィダはちょっと驚いたふうに息をのんで、それから「そこ死ぬよ」と言い残して台所に戻ってった。ヴィダの言葉の意味を考える間もなくゲームの中のオレは爆弾に吹き飛ばされて死んだ。
「うあー!負けたー!」
ついつい通路に飛び出しては出会い頭に爆弾を置かれ、ふと気がつけばまわりを爆弾が取り囲んでいて死んで、ともすれば爆風がどこからともなくやってきて死ぬ。
ゲームの中に住んでいたら、命がいくつあっても足りないなあと電源を落とし、ごろごろと床に転がる。もう全然勝てない。同じ面を延々とやり続けて飽きてきてしまった。
かといってなんのゲームをしようか、と悩んでいると、がちゃりとリビングのドアが開く。クリスだ。
「やぬしー、ひまー」
「わ、バートくん、いたんだ!びっくりしたー」
大きめの紙袋を運んできたクリスの後ろで、階下から「じゃ、帰りまーす」と先輩の声がする。
てっきりシャルと来ると思っていたので、あれ?と首を傾げる。
階下でドアが閉まる音がして、クリスがオレの様子に気がついて声をかけてきた。
「シャルくん、途中まで一緒だったんだけどお仕事抜けられなかったみたい。すごい残念がってたよ」
「そうなんだ。じゃあお前でいいからゲームやろうぜー。飽きちゃった」
「うーん、ごめんね、もうちょっと待っててー」
そう言って、クリスも台所に袋を運んでいく。
誰にも構ってもらえない可哀想なオレはというと、より暇を持て余してしまっていた。
「お菓子でも買いにいこっかなぁ」
ちら、と台所のほうを見ても誰も顔を出さない。
むーと頬を膨らませ、そのままころんと大の字。
気がついたらヴィダに起こされていた。
「バート、ほら夕飯」
「ん?おー、食べるー」
部屋中にカレーの良い香りが漂っていて、すんすんと胸いっぱいに吸い込みながら席に着く。
今日のカレーはご飯が山のようにこんもりと盛られ、星やお花の形に切られた野菜がころころと入っていた。なんとコーンも入っている。
「あれ、お前こんな可愛いカレー作るのめずらしくね?」
「だってバート、こういうの好きでしょ」
「オレは好きだけどさー、お前いっつも面倒だからやらないっていうじゃん」
ヴィダの作る料理は栄養配分が完璧で、見た目も綺麗に整えられている。その割に野菜をくり抜いたり、葉物野菜で高さを出したりといった飾りはやらない主義だ。
たとえるなら、仕出し弁当は手をかける癖にキャラ弁は作らない……みたいな。
まあ、元々食事に興味が無くて、クリスと生活するうちに完璧主義をこじらせながら作ってるメシだし、レシピに載っていないものは苦手っていうのもある。
だから意外だった。最近やったゲームの再現メニューだったりするんかな。
「バートくん、フライドチキンもいっぱい買ってきたからねー。食べよ」
「おー!食べる食べる」
テーブルの真ん中には揚げた鶏や揚げたじゃがいも。それだけなら最高だったけど、サラダボウルにたっぷり盛られた野菜を見て、これも食べないと文句言われるだろなーと思う。
みんなでいただきますと食事を開始。
うん、おいしい。
なにより可愛いのがいい感じ。
「ヴィダは辛かったり甘かったりするからタマネギでさー、シャルはじゃがいもで、オレはにんじんだよなー」
「なに変なこといってんの」
「んでー、家主は……なんだろ。肉?」
「僕だけなんかそのままって感じでやだなぁ」
困ったように笑うクリスを見て、うーんと考える。
「んじゃコーンで」
「えっ」
「ふふ、いいんじゃない?」
「えええ……」
「なんだよー。他に具材ないんだから、肉が嫌ならコーンだろー」
オレからするといつものメンバーではないけど、入ってると楽しい感じがぴったりだと思う。
それでいうとナスやズッキーニでもいいけど、だったらパプリカのほうが似てる。
「それよりバートさ、カレーの味どう?」
「ん?めっちゃうまい!甘口好きー」
お皿の残りを頬張ると、ヴィダにおかわり!と皿を差し出す。
いつもなら自分で盛れと言われるのに、ヴィダは文句もいわずに立ち上がってよそってきてくれた。
そういえば、サラダ全然食べてないけど怒られていない。
「ヴィダさ~、なんか変じゃね?」
「は?なに、喧嘩売ってんの」
カレーを受け取りながら思ったことを言うと、ヴィダが睨んでくる。おーこわ。
「だってさー、いつもなら自分でやれって怒るじゃん?夕飯もカレー作ってくれたし」
「……バート、もしかして今日がなんの日かわかってないの?」
「へ?」
今日なんかあったっけ、と首を傾げる。
今日は仕事が休みで、昨日からヴィダの家泊まってごろごろして、朝までゲームしてごろごろして、昼に起きてゲームして、クリスが出掛けていってる間もごろごろしてゲームしてた。
「誕生日」
「んえ?」
「誕生日でしょ、今日」
思わず口をぽかんと開ける。そういや今日、ずっとゲームしてたから携帯端末を見ていない。見ていれば誰かしらからお祝いメッセージが来るので、気付いたはずだ。
「え、オレ、今日誕生日……?」
「そうだよ。だから何食べたいか聞いたのに」
「えー!!だったらシャトーブリアン食べたかった!」
「食ったこともないもん要求すんな」
ごんっと手刀を頭に受け、「いたいっ」と悲鳴を上げる。
「シャルくんは仕事終わらせ次第、プレゼント持ってくるって。預かるって言ったんだけど断られちゃった」
いいながらテーブルの下に置いていた紙袋を取り出し、一つずつ見せてくる。
「これがマリーから預かったやつで、こっちがダニエルさん、これがー……エリックさんかな。他にもいろんな人から預かってきたよー」
「まじでー!なあなあ、新しいゲームある?」
「ど、どうかな。中身は知らないんだ」
席を立ち、オレの横までやってくると大きな紙袋を近くに置いてくれた。
よくよく見ると、組織で仲良いヤツからのプレゼントもある。
色とりどりの包装紙やリボンで綺麗にラッピングされたそれらは、見ているだけでテンションが上がる。
「オレからは参考書」
「げっ」
「嘘だよ。ゲームの攻略本。ほしがってたやつ」
「え、うっそ。あれ開発元の国でしか売ってなかったやつじゃ……?」
「そ。こないだの出張のとき買ってきた」
「ヴィ、ヴィダ~~~~!!」
ぎゅうと抱きつき、すりすりと頬を寄せる。
口も態度も悪いのに、こういうところは優しい。だからオレはヴィダが好きなんだ。
「僕からはこれ。対戦もできるゲームなんだって」
「えっ、これ、今めっちゃ人気のゲームじゃん。家主こういうの詳しいの?」
「いやー、詳しい人に教えてもらっただけなんだ。僕はゲーム得意じゃないし……」
視線を泳がせるクリスから受け取ったゲームをみて、ヴィダも目を輝かせる。こいつも面白そうって言ってたゲームなので、気になるんだろう。
「今日の洗い物は僕が頑張るから、二人はゲームやっておいでよ」
「え、いいよ。オレとヴィダでさっさと片付けたほうが早いし」
「あんたに任せると気が気じゃないからいい」
「う、うん……ごめんね、ありがとう」
所在なさげに身を縮めるクリス。長い時間、どこに出掛けたんだろうと思ってはいたけど、こいつなりにプレゼントで悩んだり、買いにいったり、組織にオレ宛てのプレゼントを取りに行ってくれていたのか。
皿洗いを任せるのが不安なのは確かだが、その労力を思えば皿洗いぐらいはやってやろうと思う。こういうのはもちつもたれつというやつだ。
「なあなあ、じゃあ今日は食後にケーキとか……?」
「うん、おっきいの買ってきたよー」
「よっしゃー!」
両手をあげて喜ぶと、やっと開放されたとヴィダがいそいそと離れていく。
ついでに空いた皿を片付けていくので、オレも一緒に回収して台所へ運ぶ。クリスが立ち上がろうとしたのは制して。
台所の流しに皿を重ねておき、リビングに戻る前にヴィダに声をかける。
「ヴィダー、ありがとなー」
誕生日は特別な日だ。
カレーは元気になれるし、プレゼントはわくわくするし。お祝いしてもらえると嬉しくて嬉しくて。床から三センチぐらい浮いている気がする。
そんなふわふわとした心地のオレを見て、ヴィダは足を止めると近くに寄ってきて、
「誕生日おめでと。バート」
ぎゅっと抱きつくと、ほっぺたがぷにっと触れあって。
すぐ離れていってしまった。
「ず、ずーりぃー!」
「まだまだ弱いね」
「なんだよー!!」
慌てて追いかけてあしらわれて。
ささやかだけど特別なカレー曜日は、夜更かしと共に過ぎていった。
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翌日シャルくんが「ボクもカレー食べたかったー!!」って朝から飛び込んでくる。
バートくんお誕生日おめでとう!
今年は二年目のお祝いなのもあって、日常感ある話がいいなーと思って書き始めたんですが日常っていえばカレーでしょって生まれてからずっと日本人は思いましてカレーです。
ヴィーくんも誕生日なにがいい?って聞けばいいのに…(笑)
おっきいケーキはチョコレートかな?いちごかな?
私も明日かどこかでお祝いケーキ買おう