2026年6月7日 COMITIA156 お品書きです!
スペース:K10b
サークル名:おやつ日和
新刊セット(小説、チェキ、ランダムコースター1枚、選べるアクスタ1種)
1500円。
・チェキ単品100円
・アクスタ単品1000円
・選べるコースター3枚セット200円
です。
小説はセット頒布のみで、本ページの下のほうに一話分サンプル載せています。
新刊セットは、↑の封筒に入れてお渡しします!
ここから小説サンプルです~。
ヴィダらがコラボカフェを行うに至った話とアフターの話の二本立て。
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Silhouette revely
「そこをなんとか! お願いします!」
「いやさすがに難しいです。経験もないことをお引き受けすることはできません。申し訳ないですが、お引き取り願います」
扉を開けると、必死に頼み込む男の声が耳に飛び込んでくる。対して、困った様子ながら引く気のないクリスの声。
「……?」
買い物から帰ってきたヴィダは、珍しくクリスの言い争う様子に興味を惹かれた。
あのお人好しが他人からの依頼をああも毅然と断るのは珍しい。彼が頑として断る案件は少ないもので、大抵似たような内容だ。
荷物を置き、顔を覗かせてみるとクリスより少し年上の頃だろうか。スーツ姿の男性が必死に頭を下げている。その様子を見て、クリスが不用意に依頼人を怒らせたのではないと知って胸を撫で下ろした。であれば、問題があるのはやはり依頼内容のほうだろう。
ちらりと視線をクリスに向け、その表情が笑顔でないことを見てとると、ヴィダは室内に足を踏み入れた。
「どうしたの?」
「あ。ヴィーくん、ちょうどよかった。悪いんだけど、一緒に話を聞いてもらえる?」
「え?」
予想外の言葉に、ヴィダは目を丸くする。
てっきり、この場に顔を出すなと苦言を呈されると思ったからだ。
というのもクリスが依頼を断る数少ないケースは、ヴィダや出入りしているバート、シャルロットを見てよからぬことを考えた輩が勘違いして不埒なことをクリスに依頼したときだ。
なんでも屋と看板を掲げる店に、メイド服の男の子が頻繁に出入りするところを見て、よこしまな店だと考える人物がいることは理解している。本当によこしまな思いがなかったとしても、面白半分で依頼する気もなくやってくる人間だって多い。
そういった訪問者に対し、クリスも最初は丁寧に誤解を解くことに努めるのだが、いかんせん相手は脳みそがすでに下腹部に移動してから物を話してくるか、こちらを嘲笑するためにやってきているため会話になりゃしない。そうこうしているうちに熱が下腹部から脳に届いてクリスに殴りかかるまでがワンセットなので、今回もどうせきっとそういった話しであり、これから殴りかかられても止めに入れるようにとヴィダはこの場に姿を現した。
しかしそういった時というのは、いつも奥にいるようにとクリスは声をかけてくる。
彼は、たとえ自身が殴られたとしてもヴィダ達にはそういった人物の目に触れないようにしたいようで、いつも別の階に行くよう促す。
だというのに、今回はそんなクリスがヴィダに助けを求めてきている。
放っておけばなんでも引き受けかねない彼が、いったいどうしたというのか。
「僕だけじゃとても引き受けられない案件なんだ。でも、ヴィーくんはどう思うか、引き受ける余地がありそうなのかが聞きたくて」
クリスの声に、依頼人である男性は勢いよく顔を上げると今度はヴィダの前に傅かん勢いで頭を下げる。これが東方に伝わる謝罪の伝統、土下座というやつだろうか。
「お願いです、助けてください!」
「あの、とりあえず頭あげてください。話しは聞きます」
鬼気迫る様子に気圧されつつ、訝しい表情を浮かべながらもヴィダは促す。
「ああすいません……それでですね、お願いしたいことなんですが……」
額にだらだらと流れる汗を拭きながら男が説明を始める。彼が今回、クリスたちに引き受けてもらいたい案件。その内容とは、男が将来的に開く予定であるカフェの、事前モニタリングをしてほしいという内容だった。
「少人数で、一日だけカフェを運営してほしいんです。実際に席やキッチンを使っていただいて、使い心地や席からの見晴らしの良さを教えていただきたくて。でも、一般の顧客は招きたくなくて、でも私の伝手では想定モニタリング人数に足りなくて……。そもそもメニューから考案する時間もなくて……」
要はプレオープンである。
とはいえ男が開く予定のカフェはただの喫茶店ではなく、最近他国で流行っているアニメやゲームをモチーフにしたカフェだった。
単にドリンクやフードを提供するだけではなく、グッズの販売コーナーも実際に稼働させて、導線の確認や物を置いたときにどう陳列すると見栄えがいいか検証したいのだとか。
「それも全部こっちで用意するんですよね?」
クリスが難しい顔をしたまま、男に伝える。
「はい……。あ、でも、製作費込みで経費としてかかった分は全てお支払い致します。ただあの、何度もお伝えしておりますがセンセーショナルに打ち出したいので、必ず機密が守れる方のみお招きいただきたいんです」
整理すると、飲食メニュー、グッズの考案から制作、飲食店とグッズ販売の運営を行ったうえで、こういったコンセプトのカフェが作られることをどこにも漏らさないと確約できる人員を大量に用意しなければならない。
……なるほど。クリスが断る選択をしたのも頷ける。
「お願いしますぅぅ……どっこにも引き受けて頂けず、困り果ていた矢先、風の噂でここだったら受けてもらえるんじゃないかってい聞いて、やっっと辿りついたんですよぉ……。お金なら用意できるんです。僕の夢、叶えさせてください~!」
見たところ30代後半といった頃に見えるその男性を、ヴィダは悟られないように全身の確認をする。身なりは整っており、着ているものは仕立てがいいと評判のメーカー製オーダースーツ。こざっぱりと整えられた髪と、品のいい香水を仄かに纏う彼は多少なりとも持ち合わせはあるように見える。しかし、身につけている腕時計とネクタイが全体の衣服と合っていないことに気が付く。ずいぶん浮いているな? と、ことんと首を傾げる。特にネクタイ。なんだろう。何処かで見たような柄をしているような。
「あ」
「ん? どしたのヴィーくん」
「そのネクタイ、あのゲームのですか? サボテンのモンスターの……」
「わかりますか!? そう、そうなんです。私、あのゲームのファンで……!」
「あー。じゃあ、その時計もなにかゲームのやつなんですか?」
クリスも彼の時計とネクタイから受ける違和感に気がついていたようで、男に尋ねる。すると彼は本当に嬉しそうに何度も首を縦に振る。
「ええ、ええ! これはソーシャルゲームのキャラクターモチーフの腕時計なんですが、このソーシャルゲームが軍用機や潜水艦を美少女に書き起こすという、擬人化ものでして。これは特に私の推している……」
うきうきと話す男に相槌を打つクリスをヴィダは横目に見る。何の話もわからないだろうに、よくもまあ、いかにも興味がありますといった体を保つものだ。
クリスは、外界の情報と極力離して生活させている。ヴィダら組織特製の、最低限の機能しかついていない携帯電話を持つ彼はもちろんソーシャルゲームをやったことがないし、イマドキ珍しいくらいに箱入りで育てられた彼は、世界的に有名なコンシューマゲームだって殆ど触れていない。
そんな彼では全くついていけない話だろうに、うまいこと要点をかいつまんで相づちを返している姿を見て、自分にはできない所業だなと思う。
そんなヴィダはというと、自身の実力が反映されないゲームには興味がないので早々に興味を失い、すっかり冷えているお茶のお代わりを作りにキッチンへ向かった。
あたたかい紅茶を煎れて戻ってくる頃、ちょうど話しの切れ目に差し掛かったようだ。
「…………なるほど。熱意は伝わりました。大切になさっているんですね。拝見したゲームも、あなたの推しであるキャラクターも、大変魅力的だと感じます」
「でしょう! 私は、この国でもぜひ! コラボカフェを実現したいんです! そのために人生を賭けて資産を貯め、経営と営業を学び、ようやっとここまできたんです。だというのに……絶対失敗したくないと考えれば考えるほど誰も信用できなくなってきて……」
二人の前にティーカップを置くと、ヴィダはクリスの後ろへ下がる。
しかしよく話す客だ、と涼しい表情の下に辟易を押しとどめる。
先ほどヴィダがキッチンに戻ってから、今ここに帰ってくるまでにはそれなりの時間が経過しているはずだ。
具体的にはヴィダがのんびりとロイヤルミルクティーを作りはじめ、ことことと鍋の中で茶葉を湧かして。その匂いに気がついたシャルロットと一緒に飲んで、三階へ戻るシャルロットの背を見送ってから来客用の紅茶を作り始めて、用意をして。
それからようやっとリビングへ運んでいって、ようやく二人は話しに一区切りついたのだ。
「話は終わった?」
「あ、えーっと……」
わざとクリスにそう尋ねると、彼はあきらかに断ってほしいという表情でヴィダに視線を向ける。
「話を聞いてみて、どう? 僕はヴィーくん達にすごい迷惑かけることになるから嫌なんだけど……」
「そこをなんとか! なんとか!」
クリスの腕を掴んで懇願する男に、ヴィダもむっとしながらしばし考える。
この男は面倒くさい。だが、ジャンルは違えど同じゲーム好きな身としては興味があるのも確かだ。なにより、こんなどんちゃん騒ぎのような案件に興味を持ちそうな人物を一人知っていた。その人がもし「面白そうだね」といえばあとは全て順調に事が運ぶだろう。
ヴィダはクリスの味方ではあるが、同じぐらい彼が困っている様子を見るのも好きだ。
しばし考えたのち、ヴィダは口を開く。
「リソースの面でいえば出来ると思う。でも、さっきの条件だとこの人が想定しているよりも結構、高くなるとおもう。……本当に払える?」
「はい! お金ならいくらでも……あ、申し遅れました。私、こういう者です」
そう言って男は、クリスに名刺を渡した。
「あ。どうも。頂戴します。うち名刺作ってないんでお返しできず申し訳ありません」
男から名刺を受け取り、名前を改めたクリスがヴィダに名刺を渡す。その瞳が一瞬、細くなったことに気がついたのはヴィダだけだろう。ヴィダも名刺を検め、なるほどと頷き、今度はクリスへ向かって口を開いた。
「本当にいくらかかってもよくて、全部お任せでいいならなんとかできる。引き受けてもいいよ」
クリスはヴィダの言葉に戸惑いを浮かべつつ、男に向かい直した。
「ひとまず、お話は伺いましたのでこちらで条件と金額について整理致します。その後、こちらの提示した条件とお見積もりにご納得いただけましたら今後について話しあいましょう。それで構いませんか?」
「ありがとうございます! 承知しました。いい取引になることを期待します」
「ではまた、ご連絡いたします」
クリスの言葉に男は何度も何度も頭を下げ、ご機嫌な様子で出ていった。
ばたんと閉じたドアの向こうで、男が「やったー!」とはしゃぐ声が聞こえてきてクリスが肩を落とす。
「はー……疲れたぁ。ずいぶんエネルギーにあふれた人だったなぁ」
「お疲れ様」
「ありがとー、ヴィーくんもごめんね、付き合ってくれてありがとう」
そのまま執務室へ戻ったクリスは椅子に腰掛け、ぐうと背を反らす。
「紅茶、いれなおそうか?」
せっかくいれなおしたというのに、紅茶はまたも冷めてしまっていた。
「ううん、いまは冷たいのが嬉しい」
よほど喉が乾いていたのだろう、一度唇をつけると、クリスはごくごくとカップを傾けていく。すぐに空っぽになってしまったカップを見てヴィダは笑う。
「冷たいの、作るよ」
「ありがとう、嬉しい。もう喉からっからで……」
「ちょっと待ってて」
二人分の冷えたアイスティーを作り、ブランデーをちょっと垂らした生クリームを上に乗せて運んでいく。疲れたときは甘いほうがいい。
出来上がったアイスティーに口をつけ、少しの間沈黙を楽しむと、クリスがヴィダに尋ねた。
「ヴィーくん、本当に受けるの?」
「うん。せっかくだからオレたちのコラボカフェやろう。予算はいくらでもあるんでしょ? せっかくなら制服もデザインしてもらって、グッズも作る」
「僕はやだなぁ、ヴィーくんたちのグッズってことでしょう?」
けわしい表情を浮かべるクリスに、ヴィダは目をぱちくりさせる。
「なに他人事みたいにいってんの。あんたのも作るよ。店員役は全員分作る」
「えっ。な、なに作るの……?」
「手のひらサイズのぬいぐるみと、アクスタと、ランダムコースターと……あとなんだっけ。シャルのが詳しいかな。他にだれがこういうの詳しいっけ。バートに聞かなきゃ」
「ヴィ、ヴィーくん?」
「それに制服だって……店員役は何人だ? 厨房と、ドリンカーと、ホールが……物販だって回さないといけないし、休憩時間を考えると……」
「おーい。ヴィーくん、おーい」
ぶつぶつと呟きながら、携帯端末のメモ機能を使用してすさまじい勢いでやるべきことをまとめていく。
クリスがいくら声をかけても、ゾーンに入ってしまったヴィダは全然反応しない。
「もしもし、オレだけど。ちょっと聞きたいことがあって……」
そのまま電話をかけたり、メッセージアプリでやりとりを始めるヴィダに、クリスは自分の仕事を進めてしまおうとペンを取った。
……………………
…………
「決まった……!」
「わあ!」
それから優に三時間は過ぎ、とうに日が落ちてオレンジ色のランプの下で作業していたクリスは、唐突に立ち上がったヴィダに驚く。
「ボスが全面協力してくれて、制服のデザイン依頼の当てもついたし、必要な人員も確保できた。絶対成功する。間違いない」
「そ、そう……?」
「マリーさんも呼ぼう。オレもニールを呼ぶし」
「へっ?」
ヴィダの提案に、クリスは首を傾げる。それもそのはず、今回はてっきり組織の中だけで解決する話だと考えていたからだ。
マリーは隣に住んでいる花屋だし、ニールは朝夕に新聞を配達しに来てくれる少年。二人とも疑いようがないほど一般人だ。
「ボスが組織の人間だけっていうのも偏ってよくないでしょって。大丈夫、店員役はみんな顔なじみだし、客役も組織の上の人間か、顔なじみしかこない」
「いやいやいや、一般の人巻き込んでいいの……? なんかこういうのってよくいうじゃない、カタギを巻き込んじゃいけない、みたいな」
「向こうはオレたちのこと一般人だと思ってるし」
「いいのかなぁ……」
「もちろん、声かけてみて嫌がられたらやめるけどさ。でももしオレたちがカフェやってる時に二人に見られたら、絶対聞かれるよ。なにしているのかって」
「まあそれは……そうだけど……」
なるべく内密にしたい状況で、たとえ詳しいことを語らずとも依頼でカフェをやっているなどと言えば、あの二人は目をきらきらとさせて興味を持つだろう。であれば、最初から目撃される可能性を前提に、巻き込んでしまえばいいというのがヴィダの見解だった。
クリスもその理由には反対意見がでないのか、しばらく難しい顔をして考え込んでいたがしぶしぶ頷く。
「じゃあ、この依頼は受けるとして……ヴィーくんに色々考えがあるんだね?」
「うん。色々やってみたいことがある。シャルもバートも乗り気」
「そっかー。なら、お任せしちゃって大丈夫? 依頼人やマリーとは僕が交渉するから」
「大丈夫。ニールはお客さんとして招待券を送る予定」
「一応聞くけど、ニールくんは口外しない人……だよね?」
「うん。そこはオレが保証する。あんな頭のいい犬と居られるんだから、約束は守るよ」
「い、犬基準なの……?」
謎の根拠に裏打ちされた謎の自信を豪語するヴィダにクリスは苦笑しつつ、先まで作成していた書類を見せる。
「じゃあ、さっそくだけど書類作ったから一緒に確認してもらえる? 条件と、予算の目処はこれでいいか見てほしいな」
「ん」
その日は夜が更けて尚、部屋の明かりが落ちること無く二人のシルエットがいつまでも会議を続けていた。
はじめてのなんちゃってコラボカフェ。にぎやかな当日を夢見て、支度は着実に進められていくのであった。


