ヴィーくんの過去話の妄想です。(正規版では変わるかも)
・お食事中の方は閲覧しないことをお勧めします
・気分が悪くなる恐れがあります
・気持ちが落ち込みやすい、引きずられやすい方は閲覧しないことをお勧めします
・絶対に真似しないでください。創作物であることを理解したうえで、お読みください。創作物を現実に持ち込み混同してしまう方は当サイトを今すぐ閉じ、忘れてください。
嫌な人は本当に嫌な気持ちになると思うので、読まないという選択も大切ですよ
大丈夫だよって方は、読み終わったら山盛りのクッキーとあったかい紅茶を飲んでるヴィーくんのことを考えながら甘いものでも食べてくださいね。
もうちょいスクロール
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「いってきます」
返事はない。
もう長いこと父さんは寝室に閉じこもり、日がな一日をベッドで過ごす。
室内の光源は同じチャンネルを映し続けるテレビと、父さんの手に握られた携帯電話だけ。
母さんがいなくなってしばらくは、どこかと頻繁に電話をしては泣いたり叫んだり怒鳴ったりとしていたけれど、それも落ち着いてからは延々と画面を下へ操作している。何かニュースの記事を調べているようだが、詳しくは知らない。学校に行って、帰ってくると冷蔵庫にパンや缶詰が押し込まれているのでそれを食べて、また朝になったらパンを食べて学校へ行く。
その間に父さんと顔を会わせる機会はなく、開きっぱなしの部屋から漏れてくる異臭とノイズ交じりの談笑に視線を向けても丸まった背中しか見えない。
冷蔵庫に食事が入っているから、生きているのだろうと受け止めて。
急に母さんが出ていってしまった事実を受け入れられない父さんは今が大変なのだからと粛々と日々を過ごしていた。
母さんが出て行ったのは、余所に好きな男性が出来たからだというのは知っていた。
大声で泣きながらどこかと電話していた父さんの声と、携帯電話から聞こえるどこかの探偵だという人の淡々とした声のやりとりも。怒鳴る父さんと呆れた様子の警官とのやりとりも。『そんな調子だから出ていかれたんだ』と見知らぬ女性とのやりとりも聞いていた。
実際、父さんの何が不満だったのかは知らない。
でも、子供の目線で父さんと母さんの間で目立った喧嘩はなく、生活に困窮するということもなく。ある日唐突に母さんがいなくなった、というその日まではクラスメイトたちの家となんら変わりのない、普通の。一般的な。平均的な家だったとおもう。
冷蔵庫に入っている、ぱさついたパンを囓る。
缶詰も、パンも。冷蔵庫に入れる必要がない食べ物だ。
でも父さんはよく知らないから、買ってきたらとりあえず全部冷蔵庫へ入れる。
学校の送迎がなくなったので、朝早くに家を出て歩いて向かい、夜になって家へと辿り着く。
鍵を開ける。
「ただいま」と、慣習的に言葉を落とす。
返事はない筈だった。
いつも通り家に明かりはついておらず、玄関の明かりをつけようと手を伸ばそうとして暗闇が動いたことに気がついた。
父だった。
「お前が、お前が良い子じゃなかったからだ。あいつが、あいつがあいつがいなくなったのは、お前を育てるのに疲れたから!お前が!お前が夜に泣いて!騒いで!」
全身を強く打って、痛みの前に困惑が先に立った。
夜に泣いた?いつの話だ?と。
ゴミ箱の蓋にこびりついたような悪臭を伴う唾が顔に触れる。
「そう、お前が良い子だったら帰ってくるんだ!お前が良い子にすれば!」
二の腕を握りこまれて、怒鳴る父親があまりにも怖くて。
そりゃそうだ。彼に怒られたことなんてこれまでなかった。
「良い子で……お前が、言うことを聞いて、面倒にならなくなれば帰ってくるんだ……なあそうだろう?」
力の加減もきかないのか、必死で縋り付いてくる様子になんとか頷いて。
顔が溶け崩れたような笑みが暗闇で見て取れて、臭気に顔を反らしたい気持ちもなんとか耐えた。
もう学校には行けないな、とそのときにようやく、諦めた。
誰も使い方がわからないから置物と貸した洗濯機に、また一枚駄目になった服を捨てる。
どれだけ水で擦っても、服から臭いが取れない。
食事は摂れなくなった。
何を食べてもトイレの隅と排水溝の垢を混ぜたような味がぼそぼそと残っている感覚がする。取っても取っても舌の裏や歯の隙間に硬い毛が残っていて、飲み込んでしまいそう。冷蔵庫の湿気を吸ったパンも、生臭いだけの缶詰のぬるついた魚の感触も、何もかも吐き気を伴って喉が痙攣してしまう。
そうやって何度吐いてもくだしても、胃の奥に、体の奥に悪臭のもとが残っているからどうやっても汚くて、臭くて。自分も彼と同じものに成り下がったのだと感じた。
それでもその頃は、まだ信じていた。
いうことを聞けば。泣かずに、喚かずに大人しく、良い子にしていれば。父さんが言うように母さんはいなくならなかったし帰ってくるのだと信じていた。縋っていたのだ。同じように。
「……そろそろ、いいこになれた……?」
吐きすぎて、えづくのが癖づいてしまって。
水分も栄養も足りず、起き上がることもままならなくなってきた頃。朦朧とした意識で父に尋ねた。死ぬのかもなってどこかで思っていた気がする。それでも自分が悪いものだから、死んで、良いものになることで母さんが帰ってくるのであればやっと許されるのかと思って受け入れようとしていたのだ。
「いいこなら、母さんは帰ってくるんだよね?いいこになったんだって、そろそろ」
後から思えば、そんなことあるわけがないのは当時でもわかっていただろうに。
それでも縋りたかったのだろう。自分が頑張ることで取り戻せるならと、子供ながらに考えてしがみついていたのだ。その希望に。
「ばかだな、あの売女が帰ってくることなんかないだろ。女なんて男の金が欲しくて股を開いて回る羽虫だよ。俺は騙されたんだ。金ばっかだ。どいつもこいつも金ばっかで!だからお前も、あの女の子供のお前も、ここで股を開いているんだろう?俺がいないとお前は死んじまうもんな?捨てられたんだよお前は。帰ってくるわけがないんだよあの女が。帰ってくる必要もないんだよ」
え、と言葉を失った。
それは約束が違う。話が違う。筋が通らない。
しばらく呆然としたあと、ややあと首を左右に振って。立ち上がる。
それまで体はもう感覚が殆どなくて、起き上がるのもやっとなほど衰弱していたのにあの言葉を耳にした瞬間、脳に冷たい水が流し込まれたように意識が冴えて、体がいうことを利いた。つい先刻まで、ぐずついた死体と変わらないように思考も、肉体も、己のいうことをきかなかったのに。
満足そうな顔をして眠るそれの横を通る。キッチンへと向かう。
昔、母の手伝いをして野菜の皮を剥いた記憶を頼りに扉を開けて、それを手にとって。手にかけた。
背中に跨がって、人体におよそ負わせてはならないだろう傷をいくつもつけたあと、小分けにすることにした。もう無事な服なんて残っていないし、どれほど汚れたところで構わない。
教科書で見た骨の作りと内臓とを見ながら、トイレへ流せるサイズに数日かけて分けて、全て流した。骨はうまく砕けなかったものもあったので、幾つか大きな部位は部屋に置いておいた。
頭から水を被ったけれど、血も脂も全然落ちない。
仕方が無く、服だけまともなものがないか探す。これから警察に行くのに、あんな血まみれの格好で外に出るわけにはいかない。
タンスの奥、少し小さくなってしまったからと着ないようになっていた服を見つけて、不格好ながら身に付けた。服はきつかったけれど、しまい込まれてしんなりとした服はあの臭いも血の臭いもしなくて、乾いていて、汚れもついていなくて。何時ぶりかにそんな服を着たことに、喉の奥が引きつった。これではせっかくの乾いた服が台無しになってしまうと、靴を履いて外へ出る。
夜露に濡れた下草と、遠くで影となってざわめく森と。隣家の明かりが道路を照らしているのを見て、踵が浮いたような心地に倒れ込みそうになった。
「わ、と」
なんとか踏みとどまるも、言いつけを破って買ってしまった靴を履いてしまったかのように、体がうずうずとしてきて、いてもたってもいられない。
それは恐怖ではなかった。
行く先は警察で、死刑になるだろうに。
つかの間の自由がきらきらとまたたいていて、踊るように駆けだした。
傍からみれば、逃げ出しているようにしか見えないのかもしれない。
あるいは余りに月が綺麗で、気が触れて、死に向かって踊りはじめてしまったかのように。
オオカミが声を張り上げて吠えるかのように。
息が切れて切れて、栄養も水も足りないうすっぺらい肉体が今際の際にあえぐ息を耳にしながら、それでも街までの道を歩いていた。
「きみ、こんな遅くになにをしているんだい」
夜がそこに立っていた。
街まではあと一時間ほどだろうか。湖の傍に立つ住宅街まで来たところで、声をかけられた。
「警察に、行くんです」
ぺたりとくっついた唇を引き剥がし、答える。
その人は驚いた様子もなく返した。
「へえ。警察に?」
「はい。父を殺したので」
「一人で?」
「はい」
見ず知らずの、得たいも知れない人に何を素直に話しているのだろうと思う。
どうせ捕まるのだしと諦めていたからなのか、それとも疲弊からか。あとから思い返してもこのときの心境は自分でも理解しきれない。
「きみは、必要とあらばヒトを殺すことが出来るんだね?」
「はい」
頷く。
その返事に満足がいったのか、夜のようなその人が視線を傍らへと移す。
いつのまにか、音もなく一台の車が止まっていた。
「ずいぶん疲弊しているようだし、きみにその気があるならば身支度を整える程度はうちで世話をしよう。もちろんこのまま、警察のもとへ向かっても構わないよ。好きにしなさい」
車から降りてきた一人が、恭しく礼をする。
誘拐。臓器売買。奴隷商人。様々な言葉やニュースの見出しが脳に浮かぶ中、足を踏み出す。
元より、失うものもない。
車へと足を向けた自分を見て、夜を象ったようなその人は愉快そうに笑った。
車の中でジュースをもらい、クッキーをもらった。
甘いお菓子は不思議と体に染みて、いつぶりかに吐くこともなく、腸がねじれることもなく口にすることができた。与えられるがまま、夢中になって食べていたと思う。後にも先にも、あれほど甘味を取ったのは初めてだった。印象的だったのは、酷い臭気と垢だらけの汚れた自分を見ても誰一人眉を寄せることもなく、当たり前のように接してくることだった。汚れ一つない、綺麗な身なりの。自分のような男からみても格好いい人たちだったのにとかえって申し訳ない気持ちになりながら座席で縮こまっていた。
家では洗剤の類いがなくなってしまってからは水で体を流して、洗濯ができなくなってからは同じ服を着るしかなかった。そんな自分を、気遣わしそうに見ていた学校の先生ですらふとした折りに嫌そうな顔をしていたし、それが人間として当たり前の反応だとはおもっていた。自分だって、路上生活の人が隣にいたら嫌に感じるだろう。実際問題、どんな不浄の菌を持っているかもわからないのだし。
なのにどうして、この人達は嫌そうにしないのだろう。この車だって、安いものでもないだろうに。
その疑問は、組織の人たちへ自分の住所とこれまでの経緯を説明したあと、彼らから自分たちがどんな組織なのかを説明されたことで解決した。
身寄りのない子供を受け入れ、組織の中で育てる。子供が大人になるまで、一人で不合理に対処できる知識と技術を教える。
育った子供たちは表には出せない欲を叶える代わりに、衣食住の充実と成果報酬を得られながら、ゆくゆくは卒業するのだという。
「嫌な仕事も多いけれど、それでもうちで働くのなら歓迎するよ」
全身を綺麗さっぱりと洗われて十分に睡眠と栄養と食事を与えられたあと、組織の仕事をするのかと人伝てに尋ねられ、受け入れた。
これはオレの選択。
終わらない放課後から夜に足を踏み出すことを自分で選んで、ここで働くことを選んだ。
組織の人に、あの夜に出会った人たちのことを尋ねたが誰も知っている人はいなかった。世話を焼いてくれた人からは世界各地にあるという組織の誰かなのだろうと聞いて、ならばいつか出会って礼をしたいという一心で己を磨いた。
クラスが上がって、所属している組織の中で一番の評価を得て。
海外の支部を飛び回っても会うことはおろか、情報も得られないまま数年が経過していった。
……まさか、そんな恩ある組織を裏切ることを決意したことがキッカケで再会することになるとは、まるで予想もついていなかったけれど。
先の見えないあの夕暮れから夜へ飛び出して、走った先の夜にみつけた星へと手を伸ばして、そして尚も走り続ける。
「ヴィーくん、おはよう」
「おはよ」
今日も窓を開け、晴れた日の乾いた風を部屋に取り入れる。
挨拶をかわし、洗濯をして、掃除をして。食事を作って、食卓を囲む。
まだまだ足を休める日は見つからないけれど、それも幸せだなと、心からそう思える日々が今日も続いていく。
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原案とイラスト担当のしたださんと、要素要素どういった過去があるのかを聞いていて、
ふとした折りに浮かんだのでばーっと書き上げたもの。
実際にお父さんに落ち度がまったくなかったのか、お母さんはどんな人だったのかはあえて描写していません。
ヴィーくんからみたらお友達のお父さんお母さんとなんら変わりのない普通の人で、 何が起こったか正確なことがわからないし、調べるつもりもない。父だったものは酷いことをしたし、ヴィーくんも相応の仕返しをしたつもり。それでおしまいって考えるかなあと思うと、偏った書き方はしたくないなーと思って、書かないことにしました。
ずいぶん酷いことをお父さんだった人は言ってますけど、急に大切な人に捨てられて、生活は荒れるけどどうにもできない、仕事もできなくなって、なにも手につかなくなって。周りのよく知らない人にはあんたが悪いって決めつけられ、結果一日中ネットやニュースを浴び続けるとああもなるかなっていう。だからってやっちゃいけない、言っちゃいけないことをするっていう選択をした時点で何の擁護もできないですね。ないない。
クリスくんとヴィーくんは ちょっと似てる節がある過去がありつつ、我の強さが全然違うのでその差も感じてもらえたら嬉しいなーと思います。
とりあえずヴィーくんにはおいしいもの食べて、楽しいこといっぱいしてほしいです。
秋だしね。おいしいものいっぱいあるよ。