前回のダニエリ話「甘ったるいのが腐れ縁」の続き。
この二人はもういっそ、ふつうにデートしてほしいと書き手は思ってます。そっちのが難易度高そう。
ちょっとはえっちい話なので、もうしばらくスクロールください~
…………………………
「たーだいまぁ」
「物を蹴落とすな、すぐしまえ」
帰ってくるなりベッドへダイブし、その上に乗っていた服なり空のペットボトルなりを足で落とすエリックに苦言を呈す。
「拾ってー」
枕に突っ伏したまま気楽な調子でいう彼に、ため息ひとつ吐くと落ちたペットボトルを捨ててやって、服はまとめて洗濯物かごに放り、ついでに落ちてたクレーンゲームの景品とおぼしき巨大なクマのぬいぐるみをエリックへと投げつける。
「これ邪魔なんだけど」
「お前がとってきたんだろ。いらないなら誰かにやれ」
「えー……。あ、じゃあ今日のお礼にあの子にあげるか!」
「いるか?」
「いいじゃんいいじゃん、リボンでも巻いてやろっと。その辺にあった気がするし」
がさごそと棚を漁るエリックのまわりで、また物がぽろぽろと散らかっていく様に肩を落とすと、部屋を出、浴室へと向かう。もういいや。後でまとめて片付けよう。今は何より、さっさと寝たい。
二人の部屋は見習いの頃から変わらない場所にあるので、浴室へ向かう間に何人かとすれ違う。この時間は睡眠中か、まだ授業中の見習い達だ。
部屋に忘れものを取りにきたのか、まだメイド服を着慣れておらず着られているような印象の子たちがダニエルを見て、緊張した顔で挨拶して通り過ぎていった。
怖がらせたかと申し訳ない気持ちになりながら、脱衣場の扉を開ける。シャワーだけが設えられた簡易個室に入ると、頭からお湯を浴びる。ついでにこめかみをぐうと押して、目の奥の痛みを紛らわせようと試みた。
「はあ」
常に胃痛と疲労と苦労に苛まれているので常に人相が悪いのだが、年々悪化している自覚はあった。今の業務に顔の美醜は支障をきたさないので構わないが、無闇に後輩を怖がらせるのは本意ではない。
それもこれも、後輩でもないのに誰より面倒をかけてくる同僚の所為なのだが。
(……いや、最近はそれだけでもないか)
何度ため息を吐いても胸の奥にあるもやが出きらない。
上司が理解できない存在すぎて怖かった頃より、多少なりとも人間みが増したように感じる今のほうが余程大変だった。まあそれでも、今のボスのほうが好ましいことに変わりは無い。大変だけど。大変なんだけれど。
肌に触れるの温かさに後ろ髪を引かれつつ、手早くシャワーを済ませると身支度を整えて部屋へ戻る。
帰ってきた頃より散らかった部屋は静かなもので、椅子の上にはかわいらしくリボンで飾られた先ほどのクマがダニエルを出迎えた。70センチはあろうクマを無視し、飾り立てたエリック本人はと探すと、ダニエルの予想通り眠っていた。眠ってくれていて助かったと布団をかけてやって、くらくらする頭を片手で支えながら足を引き摺るようにして自分のベッドへ向かう。
眠い。眠すぎる。
崩れるようにベッドへ突っ伏し、瞼を閉じる。
やわらかいベッドと、あたたかい日差し。
物言わないそれらだけが自分の苦労をわかってくれる気がする。
底なしの穴に吸い込まれるような心地に身を任せ、ダニエルはあっという間に眠りに落ちていった。
………………………………
………………
「…………?」
いいようのない感覚に意識が浮上する。
体が重いし、動かない。いや、動かないのはどうにも怠いからだろうか。それか、意識が完全に醒めていないからか。
像を結ばない視線でわかったことは、外が暗くなっていることだ。今は何時だろうか。すっかり休日を無駄にしてしまった。
「あれ、起きた?まだ寝てていいのに」
体を起こそうと身じろぎしたところに降り注いだ声で、完全に目を覚ました。
そりゃ重いはずだし、身動きも取れない。人間が一人乗っかっているのだから。
「あのなぁ……」
「なんだよ。寝てるから気を遣っていれないでやってんのにさ」
言いながら腰を動かすエリックに、ずちゅ、と湿った音が部屋に響く。
どうやらダニエルの下肢を露わにさせ、好き勝手していたらしい。跨ぐような形で上に乗り、自らに挿入するでもなく互いの熱を擦りあわせてたようだ。
「お前の所為で疲れてんだけど」
「だから気ぃ遣ってやってるっていってんじゃん。もっと勝手にしろって?」
「言ってない」
「じゃあさー黙っててよ……ね?」
ちゅ、と唇同士を触れあわせ、ついでにぺろりと上唇を舐めていく。
遅ればせながら体の感覚が意識と伴ってきて、じれったいくすぶりがダニエルの背を擽った。
「……っ……」
「あは。元気んなってきた。お前より元気じゃね?」
「一部だよ」
「それもそっか-。……はぁ、気持ちー」
熱同士がこすれ、互いから漏れた快楽の液が混ざり合う。
卑猥な水音が跳ね、あたかも挿入しているような感覚に視界がくらくらする。
「んっ、ぁ……んー……駄目だよ動いちゃぁ」
「……よさそうだけど?」
「よくても駄目なんだって。俺が好きにすんの。お前は動くの禁止」
「ああそう……」
そう口にしておきながら動かれるのが好きなくせになぁと思いながらも沈黙は金と口を閉じる。ちなみに言ってないときに勝手にすると本当に機嫌を損ねるので、この辺りの塩梅は昔馴染みの感覚で行っている。口で説明するのは難しいのだ。
黙る代わりに、手を伸ばしてエリックの体の位置を確かめる。
「あ、こら動くなっつの。ちょっ、と!」
あ、ここかぁと把握すると、自らの熱の切っ先を埋め込む。
これまた予想通りというか、案の定というか。彼の中はやわらかく、うっすら湿り気を帯びている。気を遣ったとわざわざ言うぐらいだ、言葉通りなわけがない。
「んぁっ……なに、そんなに……っ、いれたかったの?」
「勝手にいれた癖に」
「えー、バレちゃった?……っは…あ、でも、やっぱ……こっちのが、いいや……っ」
息を荒げ、ダニエルの腹の上に手を置いて好きに腰を動かす。
動く度に艶めいた声をあげ、身をよじるエリックを見てダニエルもあがる体温を自覚する。
腰をあげ、奥を擦るようにしてやれば太ももを震わせて気持ちよさそうに息を詰める。彼の好きな箇所をぐりぐりと押し上げて、きゅうと熱が締められて。
こみ上げる熱に誘われるがまま、ただ快楽を追う。
「あっっ、やば、出そ……」
「出せば。いいよ、片付けるから」
会話の応酬より、今はさっさと熱を出してしまいたい。
きゅうきゅうと切なそうに締まる内側に、さらに熱を打ち付ける。
肌のぶつかりあう音と、粘度の高い淫猥な水音が響いて。息が上がって。熱も上がって。
「っっっは……ぁ……っ」
「…………はぁ…………」
しばらくは互いに、荒く息を吐く音ばかりが二人の間を行き交った。
「どー?気持ちよかっただろ」
機嫌のよさそうな声が降ってきて、ダニエルは素直に言葉を返す。
「べしゃべしゃになった」
「いっぱい出しちゃった」
てへ、と言葉尻に星だかハートだかをつけたような口ぶりのエリックから熱を引き抜こうと体を動かして、思わず「うわ」と声が漏れた。
なんだ、色々とすごいことになっている気がする。
思っていた以上に体のあっちゃこっちゃがべっちゃべちゃだし、様々な箇所が痛い。
「おまえ、どんだけ何した……?」
「んー?内緒。だってお前、全然起きねーし?」
けらけらと笑い、自分から熱を引き抜くとダニエルの上から降りる。
部屋の電気を容赦なく点け、ダニエルの視界がまったく機能しない間に、どうやら何かを探しているらしい音がする。
「あったあった。ほれ」
ようやく白一面の世界から解放されつつあるダニエルの顔面に、何かが当たる。
見れば、個包装されたぬれタオルのようだ。
「風呂行くのも大変だろ?それあげるよ」
「……さんきゅ。お前は?」
「ん?俺は風呂いくけど」
言うなり、タオルと替えの服を掴んで本当に部屋を出ていってしまった。
今日一番の大きなため息を口からこぼし、癖づいていて嫌だなと自らに毒づく。
仕方なしにぬれタオルの包装を破り、簡単に体を拭うと再び強烈な睡魔に見舞われた。思っていた以上に疲弊したらしい。シーツを替えるのも面倒で、もうどうにでもなれ、とそのまま瞼を閉じるとすぐに眠りに落ちた。
次に目が覚めると、もう翌朝だった。
エリックは出かけているのかおらず、クマのぬいぐるみも姿を消していた。代わりに机の上には、一つの瓶と綺麗な文字の並んだメモ用紙が置かれていた。シャルロットからだ。
『お疲れと聞きました。栄養剤置いておきます。お大事に』
これがエリックからのメモであれば疑ったが、シャルロットであれば本当に栄養剤なのだろう。瓶を開け、中身を飲み干す。
そこで気がついたが、昨夜抱いていた体の不快感がない。
節々の痛みは残っていたが、シーツも清潔になっていたし部屋も綺麗に片付いていた。
「……まさかなぁ」
おおかた、見かねたシャルロットが片付けてくれたのだろう。そういうことにしておこう。
すっかり休日を睡眠に費やすことになったダニエルは、とりあえず着替えるかとあくびを噛み殺す。あと数日は休暇がある。次はいつ休みになるかもわからないので、計画的に使わなければならない。
とりあえず洗濯するか、と着ていたものを籠に入れ、ラジオをつけると新しい服に袖を通した。
外は明るく、新聞を見ればしばらくは晴天が続くらしい。
明日もし元気で、あいつが暇ならたまにはどこか出かけるのもいいかと、焼いたパンを口に運びながら考える。ラジオからは都合がよいことに、お出かけスポットを楽しそうに紹介する声。
ぼさぼさの頭とラフな格好で、予定のない一日の朝を謳歌するダニエルは、久方ぶりに落ち着いた心地で過ごせたのであった。