カラの裏の幻灯機(クリス誕)

 クリス君お誕生日おめでとう!!ということで、イースター話です。

個人的には一冊目の本から卵と殻と空とカラと鳥とでクリスくんを構成してきたので、ぼんやりした構想はありながらあっという間に当日を迎えたもので、慌ててその場でこさえました…。月日は速い…。

シャルロット誕と話の構成は似せてますが、似てるような節もあるこの二人の違いが伝わるといいなあと思いつつ。

 

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この季節になると、街中にはカラフルに飾り立てられた卵の殻があちこちでみられる。
世界的に広まった宗教のうちの一つで、多くの人の罪を一身に背負った神の子が磔刑に処され、また復活した逸話にちなんだ祭事だ。
パステル調のピンク、ブルー、イエローと明るい春の花々を思わせる色を中心に、様々な柄のたまご飾りがあちこちで揺れ、うさぎの耳を模した被り物をつけた子どもたちが横を駆け抜けていく。
ショーウインドウの中にもたまご。鳥の巣を模した上にころころと並ぶそれを見かけた女性が足を止め、隣の男性に何事かを話しては二人でにこやかに店内へ入っていった。
あと一週間ほどで復活祭。
そんな頃合いに自分の誕生日はあったが、今年は気楽でいられるのだなと周囲に誰もいない道端で実感する。
誕生日も、祭日も、何かにつけて酒を飲み交わしたがる大人たちの口実の一つに過ぎないので、当人である自分からすれば肩が凝るだけの日であった。
夥しい数の招待状に目を通すこともなく、来客者へのお礼を書くばかりの日々を思い悩むこともない春はなんて素晴らしいのだろうなぁと、身軽な格好で街を歩く。
駅前に通りかかると、レジャーシートを広げた子どもたちがイースターの飾りを売っていた。
お一ついかがですか、とたどたどしい声で尋ねられ、僕はそれならと一つ、鮮やかな色をした卵の飾りを手に取った。
笑顔で礼を言う子供と、その横でちゃんと出来たねと褒める母親に礼を返して駅へ向かう。
電車に揺られながら、卵を見る。
イースターエッグというのは、卵に小さな穴を空けて中身を綺麗に取り除いてから外に色をつけるのだそうだ。
復活した神というのは、外の殻をなくしたあとの世界で何を思ったのだろう。痛くはないのか。寒くはなかったのだろうか。
神を包んでいた殻は、中身を失って何を思うのか。或いはそれが世界というものなのか。
そんな雑多な答えのない問いを無為に思い浮かべたところで、やがては逃れようのない一つの思考に落ち着くのだ。自分とイースターエッグというのはよく似たものだということに。


「ねえ、なにかほしいものないの」
一ヶ月ほど前にヴィーくんに聞かれたときに、僕はなんと返したものかと悩んでしまった。
「うーん。あ、あれ作ってみたい。バケツプリン。すんごいおっきいやつ」
「プリンも作れたことないのに?」
呆れた、と顔に浮かべるヴィーくんに適当に笑いで返し、他になにかいい答えはないかと自らに問いかける。しかしどうにも思い浮かばず。やりたいことは?と聞かれれば答えはあるけれど、ほしいものは?と聞かれるといつも答えに詰まってしまうのだ。自分で買うのならともかく、人に贈ってもらいたいものなど何一つ思いつかない。
「じゃあえっと、ハンバーグ」
「夕飯に作るよそのぐらい。なんかないの」
「ううーん……声が変わるガスとか?」
「バートが悪ふざけするから駄目」
「うーんそっかぁ」
ほしいもの。ほしいものかぁと頭の隅から隅を捜しまわるも、日用品や消耗品しか出てこない。かれこれこの質問自体、ヴィーくんで3人目。聞かれるたびにどう返していいか困っては思いついたものを返していた。
「まあいいや。なんか考えとく」
「あ、うん。僕も思いついたら言うね」
それから一ヶ月、何一つ思いつくことなくこうして今日も日がな一日を過ごしていた。
朝から家を追い出され、日が暮れたら帰ってくるよう言われたのでぶらぶらと街をさまよっている。どっかの誰かさんもこういう暇な時こそちょっかいを出してくれればいいのにと思うも、僕は携帯電話を持っていないし向こうも忙しいのか用がないのかでただただ暇を潰して過ごしていた。
美術館へ行ったり、映画をみたり。電車を乗り継いでぶらりぶらりと歩き回った。
何処へ行っても楽しいし、何をしていても真新しい。
今の僕は昔からの地続きでありながら、一度死んで生まれ変わったようなものであって、少し前であれば想像も出来なかったような日々を送っている。そこらへんに転がっている楽しいことを探して過ごす毎日が分不相応に思えてならないほどに幸せなのだ。
「お兄さん、レモネードはどうだい。飲むとすっきりするよ」
「そうですね、一つお願いします」
レモネードスタンドの呼び込みに足を止め、代金を払うとカップを受取り歩き出す。そろそろ帰宅してもよい頃合いだろうか。
帰りにマフィンでも買っていこうかと考え、やめる。
もしかするとマリーがプレゼントで持ってきているかもしれないし、そうでなくともヴィーくんは大きなケーキを作るつもりだろう。冷蔵庫に見たこともない量の生クリームの素が入っていた。あれがケーキ用でないとしても、それだけの量の何かは出てくるということだ。
レモネードを飲み干すまでにしばし考え、結局はなにも買わずに家へ戻る。
ドアを開けた瞬間、四方八方から炸裂音が聞こえてきて思わず固まってしまった。
音と共に大量の紙吹雪とテープが全身に降りかかる。
「おかえりー!おめでとー!」
「ばかバート、なに今のクラッカー!?」
クラッカーの音にも負けじと大きなバートくんとシャルくんの声が聞こえ、苦笑しながら頭についたテープを取る。
「あ、あはは……ただいまー。ありがとう二人とも」
「すみません、バートがどうしてもクラッカーしたいって言ってて……。でもまさかこんなおっきい音するやつだなんて……」
「むー。せっかくのお祝いなんだし、デカイほうがいいじゃん」
唇を尖らせたバートくんの手元には大きな大きなクラッカーが握られていて、ちょっとやってみたいなと思う。
「それにさ、こいつ以外にこんなでっけークラッカー打ったら驚いて殺されかねないし」
「そうだけどさ……。ボクもやられたら殴りにかかると思うもん」
「殴るじゃすまないだろお前……」
前言撤回。やめといたほうがよさそう。
背中に冷や汗をかきながら散らばったテープを集めていると、奥からマリーが顔を覗かせた。
「ふふ。すっごい音でしたね、大丈夫でしたか?お邪魔してます」
「こんにちはマリー。ヴィーくんも台所?」
「はい!今日は二人でとびきりのごちそう作りますからね!」
前回のシャルくんの誕生日会は予定が合わずに参加できなかったマリーは、ここぞとばかりに張り切っているようで、エプロン姿で腕まくりをすると再び台所へ引っ込んでいった。
バートくんとシャルくんと、三人で散らばったテープを集めてからリビングへ入ると、なんと部屋中が花でいっぱいになっていた。
「すごいだろ?アンタに何贈っていいかわかんないからってヴィダとマリーさんが悩んだ結果こうなったんだぜ」
呆気に取られている僕の横で、バートくんが少し拗ねたような口調で言う。
「あんま困らせんなよー。あいつらどうも加減わかんなくなるみたいだから」
「あ、ははは……ごめん……」
まるでお花畑のようになってしまった壁を見て、これ後でどうしようと再び冷や汗をかく。そもそもどうやって貼り付けているのだろう。
「でもクリスさん、こういうの好きですよね?遊園地いった時も、お花の日時計ずっと見てましたし」
お花好きのシャルくんはうきうきと弾んだ口調でいう。実際、僕も花は好きだし部屋中がお花でいっぱいなんていうのは絵本の中のようで楽しい心地になる。問題はこのあとの片付けとその時のヴィーくんの心情だ。
片付けを一緒にやるとして、この茎もない花たちをいったいどこに飾ったものだろう。
そんな心情が漏れたのか、シャルくんが控えめな声で教えてくれた。
「ちなみに終わったらこのお花、教会に寄付しに行くんで大丈夫ですよ。話はつけてありますので」
「教会?シャルくん、あの教会に知り合いいるの?」
女の子しかいない教会なのに、と意外に思って問い掛ければ、シャルくんは少しだけ表情を曇らせて頷く。
「ええまあ……。僕たちの知り合いもいますけど、今回はマリーさんが事情を説明していたのでそのツテです。あそこもお花が大好きですからね」
お花かぁ、と思いはしつつも声には出さず、意外な接点に内心驚く。マリーの花屋は個人経営なのだが、結構繁盛しているイメージは抱いていた。最近ではちょいちょい手が足りず、ヴィーくんに相談している姿も見かけていたが教会にも卸していたとは。
「だからそんなに心配しなくて大丈夫ですよ。ヴィーくんも知ってますし」
「そっか。ありがとう、色々」
「いえいえ。……あ、ヴィーくん来ましたね」
両手にミトンをつけたままのヴィーくんが台所から出てきたので、シャルくんが僕から距離を取る。
「おかえり。まだ料理はできてないよ」
「お腹は空いてないから大丈夫だよ。にしても大掛かりなんだ?」
「あんたの誕生日だし。せっかくだからすごいもの作ってびっくりさせようってマリーさんやシャルたちと話したんだ」
そう話すヴィーくんは得意気ですごくかわいい。すごいものってなんだろう。確かに冷蔵庫は見たこともないぐらい物で溢れていたし、こうしている間もちらちらと台所を気にしている様子を見るとこちらもそわそわとしてしまう。
「で、まだ当分かかるからさ。その間にあんたはこの家中に隠した誕生日プレゼント探しをすること」
「えっ?隠されてるの?」
「そ。オレとバートとシャルとマリーさんから。四つのお宝があるから全部見つけたらシャルに声かけて」
「これ、ヒントです」
抜群のタイミングでメモを渡してきたシャルくんはにっこりと笑う。本当に、色々考えてくれるんだなぁと胸にあたたかいものが込み上げてきて、思わず涙ぐみそうになってしまった。
「じゃ、オレもう戻るから。今日のごはん、期待してて」
やはり得意げに笑って台所へ戻っていくヴィーくんを見送ると、バートくんがにやにやと腕に掴まってきた。
「オレからはゲーム買ったんだ。見つけられたら今夜一緒にやろうな」
「えー!なんのゲームだろ。やりたいやりたい」
「バート言っちゃうの!?あ、あの、ボクからもそんな大したものじゃないんですけど買ったんで……見つけてください……」
「見つけるよ〜。楽しみだなぁ」
心の底からそう思いながら、ヒントを頼りに部屋の中を探していく。
文字通り家中を巡りながら、途中焦れたバートくんが答えを言いそうになってシャルくんとひと悶着したりとしつつもなんとか全て見つけて、おもいおもいのプレゼントと、メッセージカードを抱えてリビングへ戻る。
いつの間にやらリビングのテーブルにはあふれんばかりの料理が並んでいて、机の真ん中には芸術作品のようなお砂糖で作られたお花で彩られたケーキや丸焼きの鳥が鎮座していた。
「全部みつけたんだ。誕生日おめでと」
両手いっぱいにプレゼントを抱えて立っていた僕に、料理を並べていたヴィーくんが言う。
誕生日おめでとう、そんな何度も聞いた言葉だけれど、生まれて初めて自分に向けられているのだと実感する。
「ありがとう」
だから僕も、心から返す。
未だに卵の殻の中は空っぽだけれど、少しずつでも身は伴うのだろうか。
その夜はみんなでお腹がはちきれそうなほど食べて、ゲームして。マリーが帰った夜中過ぎに話を聞いたヴィーくんたちのボスと護衛さんとがやってきて、みんなでもう一回テーブルを囲んでゲームもした。
そのまま明け方まではしゃいで、朝を迎える。眠気に負けて寝落ちた僕が昼過ぎに起きると、リビングはすっかり片付いていて、ヴィーくんだけがいつもどおりに窓を拭いていた。
「おはよ。少しは寝れた?」
「うーおはよう……。ヴィーくん寝た?」
「寝てないけど大丈夫」
「そっかぁ。お掃除ありがとう」
なんだか夢を見ていたような心地だったなとすっかり元通りの壁をみて、どうやってくっつけてたのか知る機会を失ったなぁと思う。
「……まあでもちょっと眠いし、あんたも二度寝するなら付き合うよ。誕生日明けなんだし」
「ほんと?じゃあ一緒にお昼寝しよ」
なんだ、ヴィーくんも眠かったのかと連れ立って布団に入り、ころんと丸まる。ヴィーくんも丸まって、目を閉じる。
心地良い気温に肌触りのいいシーツ。ベッドサイドにはまだ開けてないプレゼントもあって、開けるのが今から楽しみだ。
いい日だな。
そう思いながら、僕は目を閉じた。