とある一日の誰かにとって特別な日(シャルロット誕)

シャルくん、お誕生日おめでとうなお話。

CP要素はなしです。

あの三人の中では、シャルロットが一番組織への依存度が高くて、ヴィダがその次。

ヴィーくんの場合、ボスのことを尊敬だったり憧れだったりするものがあるので、恩義もあるけどそういった面が強いかなと。

彼の誕生日がにゃんにゃんにゃんの日なのは猫とは一切関係ないんですが、猫にするならシャルくんはノルウェージャンフォレストキャット的な子がいいなあと思います。

 

 

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 起きて、着替えて。
仕事をして、仕事をして、仕事をする。
気がつけば次の朝が来ていて、次の仕事をする。
ボクは生まれた時からここにいて、死ぬまでここに居る予定なので、ずっと同じように過ごしていくのだろうと考えているし、それが望ましいと思う。
目の前に、今日も新しい子供がやってくる。
決められた通りに面倒を見て、一通りの検査と適正を見る。
ふと考える。この子はどのぐらい保つかなと。
慈善事業では人は救えない。何かを得るには、何かが必要だ。
身体を温める為には火が必要で、火が燃える為には酸素が必要であるように。生きる為には必ず消費されるなにかがある。
この組織は不必要と判断された命を拾い、使えれば使えるようにするし、使えなければそれだけの話。組織内で生まれた命であろうが、外で拾ってきた命だろうが、とある命が行き着いた先であろうがそれは変わらない。平等に実力主義であり、頑張れないのであればそれ相応に頑張れるような場所に斡旋される。たとえば治験の為に生かされたり、だ。そのためだけに健康に生かし、そして役に立って死んでいく。
人道だとか、尊厳だとか。そういった言葉はルールの上に成り立つものであって、そのルールに取りこぼされる生命は必ず存在する。ボク達の組織以外にも世界には色々な理念を掲げた会社であったり団体があるので、よりよい方法を提示できる場所があるのであればそれはそれでいいのだとボスは言っていたし、ボク達もそう思う。
路肩でも冬を越せるような気候であったり、大人達が寛容であったり、誰しもが豊かで、幸福で、欲を失うことができたなら。そんな魔法があったなら、いいのに。
けれどボク達のような人たちが一向に減ることもなく、潤沢に資金が流れていることを考えれば彼らの理念にもどこか欠陥が存在するのだろう。
今の時代、対価なしに願いが叶う魔法には怖くて手が出せない人間のほうが多い。魔法があればなあと思考するボクには悲しい話。
連絡を確認していた手が止まる。
顔写真と、番号にプロフィール。赤字で書き加えられた不適合の文字。
はあ。今日の午後も、使えなくなってしまった子が一人やってくる。
ごめんね、魔法が使えなくて。
ごめんね、神様じゃなくて。
ごめんね、ボクが夢をみれない人間で。
それでも祈る。
魔法がありますように。
神様がいますように。
この命が、

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………………

鼓膜に触れる雨音で目を覚ます。
微睡みの残る瞼を押し上げあたりを見渡すと、窓向こうの水分を含んだ雲が雪崩れ込んできたように室内は薄暗い。
目元を擦り、気だるい体を起こしながら室内外の様子を伺う。
昨晩遅く、バートがどうしても行きたいというので、クリスさん家にやってきた。ヴィーくんが泊まるなら上に行けと許可をくれて、半ば滞在場所になってきている部屋に滑り込んで……確か、そのまますぐに寝てしまった気がする。
階下からも音はしない。出かけているのだろうか。
簡単に衣服を整え、ヴィーくん達が普段いる部屋に向かうとメモがあった。
『買い物行ってくる。お風呂やキッチン、他にも好きに使っていいから』
律儀だなぁと苦笑してメモを回収し、お言葉に甘えてシャワーだけ借りることにした。
お風呂場はいつも清潔で、タオルはふわふわ。うっすらいい香りが常に漂っているあたり、ヴィーくんの几帳面さとこだわりが伺える。キッチンだって、いつも水気がない。
体を拭いて、衣服を身につけてから彼に倣って浴室と脱衣場を清掃する。
組織の外に出てからはじめて、ヴィーくんが思ったより面倒見がいいことを知った。
もちろん、前からバートのエプロンに皺を見つけては小言をいったり、そうは言いながらもリボンを直してあげたり、ボクが近接が苦手だからって守ってくれたりはしていたけれど、決して他人の世話をすることが好きというわけではなかった。
まあ、クリスさんがあまりにも自分のことが自分で出来ない育てられ方していたのもあって、面倒見たくなる気持ちはわかるのだけれど。
そう、それでいうとヴィーくんは面倒見がいいのに、どうも面倒を見ることは下手なことがわかったのも最近のことだ。
ボク達は色んなことが出来るように、それぞれの分野に秀でた先輩から教育を受ける。大人になり、『卒業』後に組織に留まることを選んだ先輩が現役を教えるので、ボク達は誰かに何かを教えるという技術や経験を持ち合わせてはいないのだが、それにしたってヴィーくんの教え下手は傍から見てて壊滅的だと感じる。
なんせ彼は、技術的なことであれば大抵出来て当たり前なのだ。
わからない、出来ないということがおよそ殆どなく、それでいて完璧主義なので本人はほぼ100点を意識せずめざし続け、とり続けることが出来るタイプの人間だ。
再現性と恒常性のある100点だなんて、ロボットでもなければ無理だと思うがそれほど彼の精神性は乱れないしブレない。繰り返し続けた鍛錬で、最適を体が記憶している彼は、どんな状況でも臨機応変に体を動かすことができる。
それ故に。どうにも。教え方が下手だった。
ヴィーくんがモンスターを一狩りするゲームでバートに指示を出している時も、料理の仕方をクリスさんに教えている時も、それじゃあ伝わらないだろうなぁと思えてならない。ならないけれど、教わってる側の二人はわからないって怒ったり、困った顔しながらも楽しそうなので余計なお世話かと思って口にはしていない。
鏡を磨きあげ、一通り掃除をし終えたあとは手持ちぶさたになってしまった。
この家に来るようになって、日常のルーティンが変化した。
外に出る任務も増えたし、休日にどこかへ遊びに行くことが出来た。
研究の仕事は減らないので単純に繁忙度合いは増しているけれど、今までよりずっと充実した毎日が送れていると感じている。今度の休日はなにをして、次の仕事帰りは……と考えているだけでも楽しい。ヴィーくんはクリスさんと楽しいこと探しをしていると言っていたけれど、確かにここには楽しいがずっと溢れていると感じる。魔法みたいに。
ずっとこのままだといいな、と切に思う。
組織に居る頃から、ボクの願いは変わらない。
ボクとヴィーくんとバート。三人でずっと組織に居ることがボクの願いだ。それはきっと、他の二人とは違えている願いなのだろうけれど。
「……それにしても、どこに行ったんだろ」
時計を見ると、まもなくおやつの時間だ。
雨も上がり、雲間から差す光がカーテンのように街に降り注いでいる。
興が乗って水回りと廊下や窓の掃除をしていたらあっという間に時間が過ぎていた。何か食べてもいいのだが、そこまで空腹を感じていないのであまり食べる気にもならない。
どうしようかと考えていると、外から聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
窓を開けて見下ろせば、なにやら大荷物を抱えた三人が見える。
「大丈夫-?」
「あ、シャル-!起きた-?」
「起きた-!ねえ、お手伝い行かなくていいのー?」
大丈夫なのかと心配になるも、特に問題ないらしい。かわりにドアを開けてほしいとのことだったので、急いで玄関へ向かう。扉を押さえていると、三人がえっちらおっちらと入ってきた。
「ずいぶん沢山買ったね」
「うん、なんか色々買っちゃった。雨、止んでよかったよー」
「それにしても買いすぎ。帰りのこと考えてなかったの」
「いーじゃんいーじゃん。もう買っちゃったんだし」
三人が騒ぐだけで、室内が一回り明るくなる。空気もやわらかくなって、色がついたようだ。
荷物を受け取っていると、「そういや」とバートがぎゅっと抱きついてくる。
なんだ、と思うより前に
「誕生日おめでとー!」
と大きな声で言われた。
誕生日……?といわれ、ああ、と合点がいく。そういえばそうだった。
組織の番号は一定の法則で割り振られているのだが、誕生日を聞かれたときに困らないようにと一部が月日で表せる数字になっている。ボクの場合は2/22で、それが本日だった。
「あ、ありがと。でも急に抱きつくのはやめて」
「なーんでだよ、オレのハグ嬉しいだろ~?」
うりうり、と頬にすり寄ってくるバートを押しのけていると、後ろでヴィーくんが丁寧にラッピングされた箱を袋から取り出してくる。
「ん。今日はシャルの誕生日会するから、座ってて。おめでと」
「わあ、ありがとうヴィーくん。なんだろう?開けてもいい?」
「あとでね」
「ええー……」
ヴィーくんも恥ずかしいのだろう、頬をちょっと赤くしてキッチンに引っ込んでしまった。
なるほど、ずいぶん荷物が多いと思ったら誕生日会用なのか。
組織にいた頃は、三人とも誕生日を意識することもなく、設定の一つとしてしか思っていなかった。
それが、クリスさんがすごく純粋に、『誕生日ならお祝いしなきゃ!』ってきらきらした目でにこにこと言ってきて、プレゼントやお祝いの準備を楽しそうに言うものだから、ボクらも気がつけば誕生日を祝うことが慣例になっていた。
それがうらやましいのか、最近ボスの護衛さんから、ボスから自分の誕生日を決めるべきか悩んでいるって相談を受けたっていう相談をしてきた。ボクにどうしろというのやら。とりあえずそういう面倒そうなのは全部クリスさんに投げておけばいいと思いますよって返したけど、あれからどうなったのだろう。見ている感じ、まだ問題は起きていなさそうだけれど。
「はい、シャルくん。この間は勘違いしちゃってごめんね」
「いえいえ、プレゼント用意してくれたんだって思ったらすごい、嬉しかったです」
クリスさんからのプレゼントは袋に入っていたので、持ってみてすぐぬいぐるみの類だとわかった。でもなんだろう、ちょっと固い。
「中に、お湯を入れられるタンクが入っててね。冬でもあったかいんだって」
「そうなんですね。冷えちゃうんで助かります」
売り場にあった売り文句のような台詞に笑いそうになりながらも、ありがたく思う。ボクが何か抱いていないと寝れないことを覚えて、このプレゼントを探してくれたのだろう。
人好きのする笑顔を浮かべて、自分ごとのように嬉しそうにしているクリスさんは本当に優しい人なんだなあとほっこりしていると、ヴィーくんがキッチンからバートを呼んだ。
「バートは手伝って。いつまでそこで遊んでるの」
「遊んでねーし!あ、ほら。シャルこれ!新しい紅茶な!」
「わ、わわわ!」
ぽいっとプレゼントを投げ渡してくるという、信じられない所行をしでかしながらキッチンに引っ込んでいくバート。あとに残されたクリスさんと、二人でなんとはなしに顔を見合わせる。
「ボクたち、どうしましょっか」
「キッチン行ったら追い返されそうだもんねえ」
ボクもクリスさんも、どちらかというと受動的なので二人してしばらくぼんやりとしていた。
どちらともなしに、袋から部屋の飾り付けを取り出して飾ったり、テーブルを片付けてしまうと後はもう所在なくなってしまう。
どうしようかな、と室内を見渡しているとゲーム機が目に入った。
「パズルゲームでもしましょうか。この間ヴィーくんにぼこぼこにされてましたし、練習、お付き合いします」
「え、いいの?やったー!やろうやろう」
ゲームの準備を整え、まずは一人でやってもらう。
それから一番簡単なモードで技を一つずつやってみてもらい、何度か繰り返してもらう。
「あっ、やっちゃった」
「あ……これだとキツいですね。そしたら」
「あ!でもこれならさっき教えてもらったの出来そうじゃない?」
「……そうですね、そうしましょうか。いいですねー、ちゃんと覚えられてます」
なんだろう。
どうにも反射神経が鈍い、というか……うーんなんだろう、どうなってもそのときはそのとき、みたいな思考の癖があるなこの人。そして、ある程度はどうにかしてしまうところがある。だからなのか、彼の中にはパターン構築をする考えがないのかもしれない。決まったパターン、決まった定石、こうしていけば勝てる、といった経験値を積むことが苦手なのかもしれない。ヴィーくんの思考と相性が悪すぎて、それは勝てないだろうしヴィーくんはやきもきするだろう。
「うんうん、いい感じですね。後は繰り返して、どういう積み方と崩し方をしたらいいか覚えることも視野に入れていきましょう」
「はーい」
「さて」
あと必要なのは、なりふり構わない意志だろうか。
コントローラーを握り、画面の操縦権を奪うと対戦モードに変更する。
「どうしてそれが必要なのかをこれから教えてあげますね」
そうだなぁ。
「ボクに負けたら、うちの組織に入ってください。今日ボク、誕生日ですし」
言って、クリスさんの顔を見て。
「なーんて、冗談ですよ。冗談」
ぱっと破顔する。
クリスさんの表情や雰囲気は、特に変わらない。
この、相手に揺さぶられたときに表情や温度感を一切読ませないあたり彼とボスは似ている。交渉に長けた人物だと感じる。でも、おそらく彼は今一瞬、迷ったはずだ。明らかにほっとしてみせるか、みせないかで。
「ボクはこのキャラが好きなのでこの子使いますけど、クリスさんはどうします?そろそろ変えます?」
「うーん、どうしようかなぁ。ずっと使ってたからこのままにしようかな」
「愛着湧くのってありますよねえ」
窓の外を、救急車両が走っていく音がする。
今日もどこかで誰かが死んで、誰かが生まれて、誰かが誰かを殺して、誰かが誰かを生かしている。
今夜も寝て、起きたら仕事をして。明日も一日仕事の予定がある。
その過程で誰かが助けられて、誰かが傷つくこともある。
「あっ」
ぷちっと音がして、パズルのピースに押しつぶされたキャラクターのグラフィックが映る。うっかり負けてしまった。
「すいません、明日の仕事のこと考えてました」
思わず言い訳がましいことを呟いてしまうと、クリスさんは気を悪くした様子もなく笑った。
「そうなんだ。忙しいもんね」
「もう一回やりましょうか」
「そろそろご飯かもよ?」
「勝ち逃げはずるいと思うんですけど……」
訴えはしてみるも、鼻先をくすぐる美味しそうな香りや、冷菜のいくつかはテーブルに並んでいるところを見るに確かに時間はなさそうだ。
「じゃあ、食べたあとにやりましょう。バートもやりたがると思いますし」
「うん。あ、そうだ。次のおやすみいつ?」
「次?」
いつだっけな、と予定を脳内で確認していると、コントローラーを片付けながらクリスさんは言う。
「僕が勝ったときの条件、つけてなかったじゃない?だから、次のおやすみはゲームの特訓につき合ってもらおうかなって。ドーナツとかいっぱい買ってさー」
ね?と無邪気に笑う姿を見て、意地の悪いことを言うか少しだけ悩む。
あんまりにも人がいいから、ヴィーくんとかボスがいう、ついつい弄って歪ませたくなる気持ちが最近、ちょっとだけわかってきた。
「じゃあ、次はモンスター狩るやつ頑張りましょうか。目指すのは一頭、自分で狩れるようになることですね」
「やったー!頑張るよ」
いっつも三人でやっているので、戦力が増えるならばそれに越したことはない。
ゲームを片付けてテレビを消したところで、ちょうどヴィーくんが大きなケーキを運んできた。
「ほら、二人とも座って。食べるよ」
「はーい」
席について、部屋を暗くして。
蝋燭だけの明かりの中、誕生日おめでとうの歌をうたって。
一息に消せば、楽しい香りが焦げ付いて。すぐに薄れていく。
もらったプレゼントを大切に抱えて、眠りにつく夜はひどく穏やかで、幸せに感じた。