違法行為はダメぜったい(クリヴィダ)

 便利屋を都合よく勘違いしたモブおじがヴィーくんを買おうとして、クリスくんの逆鱗に触れた話。

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便利屋と名乗るからにはさぞ便利に使われるのだろうということは理解していたが、その日にやってきた人間はあまりに悪意に満ちていた。悪意?いや、悪意というよりはもっと単純な、そう、ただの欲。
「その子供を買おう。時間、いくらだ?」
「はい?」
あ、まずい。嫌悪が先に声に出た。
おそらく顔にも出ている。そんな自覚がある。
「だから、便利屋だろう?」
「ああいや、便利屋というのはそういうものではなく……。というか、そういう専門のお店があるのになぜわざわざ?」
男が「そりゃあ、」と言いかけたところで、奥の部屋からひょこりとヴィーくんが顔を覗かせる。いま出てきてほしくないんだけどな、とひとりごちながら一歩下がる。
「おじさん、オレのこと買いたいの?いくら?」
「おお……!そうだな、君なら10は出そう。どうだ?」
「やっす。話にならない」
「ま、待て待て待てわかった、なら」
「あのー」
素っ気なく背を向かれ、焦った男がヴィーくんに手を伸ばす前に、二人の間に割って入る。それから、短く息を吸って問いかけた。
「なんか、手慣れてますね。僕そういう仕事したことないんで、相場とかよくわからないんですけど……お言葉ですが、高くないですか?夜のお店っていっても、もう少し安いというか……」
首を傾げてみせれば、上から下までブランド物で固めた男はふんぞり返る。わお典型的。
「そりゃあお前、子供を買えるところなんて公にあるわけ無いだろう。それに私は自慢ではないが、価値を認めたものには糸目をつけないんだよ。たとえ貧民街の価値のわからないガキ相手にだって支払うさ」
「なるほど、敬意は払うと」
「もちろん。金だけでは買えないものを、金のないものに分け与えているようなものだ。私によって何人のガキが救われたか。それにこれは、大人の嗜み……いや、金持ちたるものの嗜みさ」
金持ちの嗜みねえ、まあたしかに。なまじ金やらステータスやら、一般の人が目指すものを持ってしまうとリスクを犯したくなるものなのかもしれない。彼らの奥底にあるのは欲であり、その対象がより弱者へ向かう心理もそこから来ているのだろうと推察はできる。リスクを犯しているつもりで保身もできるように立ち回っているあたりがいかにも金持ちらしい。ちょっとしたスリルがほしいだけなら、はじめからそう言ってくれたらいいのに。
「そうなんですか、なにせこんな暮らしなのでそういった文化には疎いんですよね。勉強になります。……あ、そういえば。疑問だったんですが、たとえばうちだったり、どこで皆さんそんな情報を仕入れているんです?」
「ああ、それは我々のサロンさ。あそこには厄介な犬も入ってこないしね」
「へえ。なるほど。本当に勉強になりました」
ヴィーくんが何かに気がついたのか、ドア横に静かに移動する。
「というと、皆さん何度かご経験が?」
「それはそうさ。先程も言ったろう、これは慈善活動であり、我々の嗜みだと。映像だって……」
ピンポーン、と。
場違いに甲高い音がして、ヴィーくんがすぐに応対する。それと同時に、ポケットに入れていた音声録音装置を止め、警察に見えるように掲げる。
「児童買春ですって。これ貸してあげますね」
あっという間に不快な客は連行され、あとにはヴィーくんと二人。
微妙に気まずい空気が漂っているあたり、おそらく僕の怒りを彼は感じているのだろう。
「ヴィーくん、駄目だよあんなこと言っちゃ。本当に僕の家みたいな財産持ってる人がきたらどうするつもりだったの」
「いや……どんな額積まれても断るつもりで」
「まあ、どんな額を提示されても僕が断ったけどさ。そこの信頼だと思って受け止めるつもりだけど」
そこで一旦言葉を区切る。
ああ怒っちゃったな。
ヴィーくん辛そうだな。
「次やったら、本当に怒るからね」
でも言わないではいられなかった。もちろんヴィーくんをはじめ、みんなの仕事のことは知っているし、それは仕方のないことだというのも理解している。けれど、率先してあんな振る舞いをされるのは悲しい。
「……ごめん」
心底反省しているのか、振り絞った声にいたたまれずに抱きしめる。
「僕も怒っちゃってごめん。ヴィーくんもたぶん、僕のこと守ろうとしたんだよね」
「うん」
「ありがと。僕だってヴィーくんのほうが喧嘩が強いのもわかってるんだけどさ、あんなやつの前に出すほうが嫌なんだ」
「ん……わかった」
静かに頷くヴィーくんに、わかってくれた、と笑う。ヴィーくんもちょっと照れているのか、頬がほんのり赤くて、視線が合わない。
「そんなに大事にされたことないから、わかんなかった。次は気をつける」
「!うん、ありがと」
「次は姿を見せないで殺すようにする」
「僕達が警察に追われちゃうよ……ああいや、警察も消そうって話じゃないからね?面倒事は極力減らそうって話だからね?ヴィーくん、聞いてる?」
こないだバートくんと夜中まで警察署がゾンビに乗っ取られるゲームをしてたからか、いささか発想がそっちよりにいきそうな彼を止めながら、ふと考える。
ヴィーくんの身請け金て、いくらなんだろう。でも、あの人たちと同類になるのもなと思うと気が咎める。
「ヴィーくん、お茶しようよ。いれてくれる?」
「ん。わかった」

……後になって聞いた話だが、男に最初に応対した僕がすごい怖くて慌てて割って入ったのだと聞いて、猛省したのであった。