ジレンマアイスデイ(クリヴィダ)

みんなちょっとクリスになつきすぎでは?という、ちょっと面白くないなーとしているヴィーくんのお話。

クリームソーダを飲んでほしかった。

 

ところで平成全盛期に生きてたのでこういう話を書きたくなるんですが、オチは令和には受け入れられないかもなあと不安に思いつつ。ファンタジーだからね。ユルシテ。オデ スキ。

 

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最近、クリスがアイスクリームにハマった。
……まあ、それはいい。それはいいのだ。ヴィダだってアイスクリームは嫌いではないし、毎日違う味を買ってはうきうきと報告してくるクリスのことだって微笑ましいおもいでみている。そう、アイスクリームに罪はない。罪があるとしたら、クリスの存在そのものだとヴィダは思う。
「あ、ヴィーくん。出かけてくるね」
「またアイス?今日は誰と?」
「今日はシャルくんが食べたいって言ってたから行ってくる」
「シャルね……。はいはい、いってらっしゃい」
ひらひらと手を振るヴィダを、クリスは少しだけ目を瞬かせて見ると「いってきます」と言い残して出て行った。
部屋に一人になって、さあ掃除をするかと考えるもつま先は自然と冷蔵庫へと向かう。
空気の抜ける間の抜けた音を響かせて冷蔵庫を開けてすぐ閉め、次に冷凍室をがらりと開く。無意識の行動ではあったが、目的はこっちだ。
「……どうしようかなこれ」
冷凍室いっぱいに入っているのは、カップに収まったカラフルなアイスクリームの数々。
とりあえず思いつかず、何度か引き出しの開け閉めを繰り返す。
隣町に出来た話題のアイスクリーム屋に二人で行ったのは少し前。味だけではなく、見た目にも楽しいそれをクリスは大いに気に入り、様々な人にその素晴らしさを語っては語った人に連れて行くよう頼まれ、あるいは脅され、ともかくとして彼は連日アイスクリーム屋へと通うことになっていた。
そして毎日、ヴィダに新しい味のアイスクリームを持ち帰ってくる。
ある日はバートと、ある日はマリーと、その次の日はどこから話が伝わったのかヴィダ達を束ねる長が直接やってきてクリスを拉致していってしまった。
あの手際は鮮やかだったなーと感心したくらいにはあっという間に成人男性一人が攫われていく光景を眺めていたが、そんな日もクリスはヴィダにおみやげを買ってきた。
そうこうしているうちに冷凍室はアイスクリームでいっぱいになってしまい、とはいえこの寒い日にこんな量のアイスクリームを食べる気にもなれないと冷凍室を閉じる。
言い忘れていたが今は冬で、なんなら窓枠には雪が積もっていて、そこにはヴィダが昨日たわむれに作ったちいさな雪だるまがちょこんと座っている。これだってアイスクリームみたいなものだし、見た目にもかわいく作れたのだから、わざわざ外に行かなくたっていいじゃないか。
この寒い日にオープンしたアイスクリーム屋もアイスクリーム屋だが、この寒い寒い中連日アイスクリームを食べに行くのもどうかしているとヴィダは思う。
そのうち腹を下すか、風邪でも引くのではと内心気が気でないのだが、あれだけ楽しそうに今日食べたアイスクリームの報告をしてくる姿をみると、注意するのも気が咎めてしまうのだ。
そこがなぁ、ダメなんだよな。
はあ、と大きく息を吐く。
自覚はしているのだ。自分にも落ち度があったと。
どうにも注意ができない甘さだとか、マリーやシャルロットは一緒に行こうと事前に声がけしてくれたのに自分から突っぱねた。
おみやげのアイスクリームを一つも口にしないことだって、そんな一連の落ち度のひとつだ。一度張った意地はなかなか引っ込みをつけられないものだ。
雪だるまだって作りはしたがあえて見えづらい位置に作ったし、作ったことは言っていないし、と、そこまで考えて「あー」と首を後ろに傾け、左右に揺らす。小気味良い音が鳴るのを聞いて、自らの手で肩を揉む。
「オレが最初に見つけたのに」
声に出して愚痴をこぼす。それが独占欲と呼ばれるものだということはわかっているし、出かける彼らの中に恋愛感情を持ち込んでる人がいないのだってわかっている。
それでもむくれた気持ちになるのだ。
マリーはともかくとして、まさかこんなにもヴィダの知り合いにクリスが懐かれるとは本当に思ってなかったのだ。バートなんか、いつの間にあんなに仲良くなったのやら。
考えれば考えるほど気が重くなるので、自らの頬をパンっと叩く。
やめよう。
あの食虫植物もかくやの天然人タラシはもうどうにもできない。
なら何ができるのか。今片付けなければならない問題たちを集めて、重ねて、うまいこと並べてワンアクションで消せる方法を考えるのだ。
頭の横で揺れるリボンを何度か傾かせ、やがて一つの解を出す。
さあ後は時間との勝負だ。
まずは、とヴィダは冷凍室をもう一度開いた。

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………………

「ただいまー」
「おかえり」
寒いのか、腕を抱くようにして帰ってきたクリスは部屋に入ってくると不思議そうにテーブルを見る。
いつもなら夕食の支度がされているのに、今日はスプーンだけが置かれている。
「ほら座って」
「あ、うん。これおみやげのー」
椅子に腰掛け、クリスが差し出した袋をひょいと取り上げ、台所へ戻りながら礼を言う。
「はいはいありがと。じゃあこれも乗せるか」
「うん?」
首を傾げるクリスに、よいしょと用意していたアイスクリームタワーケーキを持っていく。
「わ、わー!?大丈夫?」
「平気。いいから座ってて」
カラフルなアイスを積み上げ、チョコレートや果物を挟んだサンドイッチなどで飾りつけたものをクリスの前に置いてやると、彼はきらきらした表情を浮かべた。
感性がわかりやすくて助かる、と満足した思いで頷き、買ってきたばかりのアイスクリームも乗せる。
「オレ一人じゃもう食べきれないぐらいあるし、アンタが買ってきたものだし。一緒に食べよ」
「いいの?」
「うん。いっぱい食べて」
それと、ともう一度台所に引っ込むと、グラスいっぱいに注いだメロンソーダの上にアイスクリームを乗せて持っていく。
アイスクリームにはチョコペンで顔まで書いた。すぐに沈んで消えるだろうし、クリスはそれを見て残念がるだろうなという計算のもと作ったものだ。
「クリームソーダっていうんだって」
「すごいねえ。あ、顔書いてある。かわいいなぁ」
にこにこと笑顔でクリスがストローを入れると、みるみる泡立ってアイスクリームの顔がごぼごぼと溺れていく。
「わ、わー!!顔が!こぼれる!」
慌てて口をつけ、急いで飲み込むも時すでに僅かに遅し。沈んだ顔が再度浮かび上がるも、泡に塗れてぐしゃぐしゃになっていた。
「ああー……」
「おいしい?」
「うん……しゅわしゅわ……」
悲しそうにしながらも感想を言うクリスがあまりにも予想通りの動きをするので、噴き出しそうになるのを必死で堪える。
彼の対面に座ると、アイスケーキにスプーンを入れて差し出す。これは初日にクリスが食べていたものだ。
「あーん」
「あーん。あ、これヴィーくんと食べたやつだ!」
「うん、そう」
自分でも口に入れ、数日ぶりに食べるアイスクリームはとてもつめたくて、甘かった。
これを毎日は食べる気がしないなぁと思いながら、クリスも誘われることがなければ毎日は行かないのかもなと冷えた頭で考えた。だからこそ好かれるのだろうが、少しはそれで困るこちらのことも考えてほしいものだ。
「シャルくんはメロン味食べてたよ。今度バニラのパチパチするやつ食べてみたいってさ。ヴィーくん、一緒に行っておいでよ。あれから一度も行ってないでしょ?」
「ん。シャルが行きたいっていったら、いってくる」
「うん」
自分ごとのように嬉しそうに返事をするクリス。ひょっとしてケンカしているようにでも見えていたのだろうか。文句があるのはアンタの方なのだが。
「あんまり食べると風邪引くよ。外寒いし」
「それシャルくんにも言われた。確かに毎日食べてるしなぁ」
シャルロットなら苦言を呈するのも当然か、と思いつつ、今はその心配は余計だとアイスクリームをスプーンへ乗せてクリスに差し出す。にやりと、笑みを携えて。
「でもさ、オレと食べるの久しぶりでしょ。まさか、オレとは一緒に食べれないなんて言わないよね?」
「う、うん。僕もヴィーくんとアイスクリーム食べに行きたかったし……」
「よかった。じゃあ今夜はいっぱい食べよう。ね?」
さすがに何かを感じ取ったのか、静かに頷くクリスに内心だけで謝罪する。
小一時間ほど経過して、寒そうに震えながらも完食したクリスにミルクたっぷりの熱い紅茶を用意してやりながら、さてどうかと様子を伺う。

翌朝。

見事に風邪を引いた様子のクリスに湯たんぽと薬を運んでいく。
注意はした。注意もしたし、連日外に出かけていたのは外ならぬクリスだ。凍えさせはしたけれど、それぐらいだ。熱い紅茶も与えたしと自分に言い訳をしてみる。ともかく、ようやく。これでしばらくは大人しく安静にしているだろう。
ぱたぱたと廊下を歩いていくヴィダの表情は、心なしか晴れやかに見えたという。